歴史的建造物とまちづくり 第5回
財団法人の運営による近代建築を再生した町並みづくり/郡上八幡
瀬口哲夫(名古屋市立大学芸術工学部教授)
近代建築の保存再生に意欲的な郡上八幡
 岐阜県郡上郡にある八幡町は、郡上踊りと宗祇水で有名な城下町である。昨今、木造の天守閣が復元されているが、郡上八幡では、戦前の1933年に、天守閣を木造で復元(注1)している。郡上八幡城は山城であるために、この天守閣は町のどこからでも見ることができる。郡上八幡にある柳町や鍛冶屋町という古い町並みはもちろん、町の規模、さらに町を流れる吉田川や小駄良川の自然も、人間スケールで、観光的(注2)に魅力ある都市となっている。
 八幡町の「都市マスタープラン」によると、通過交通排除のため、市街地を取り巻く形で、大環状路線を形成、市街地環状線沿線に駐車場を配置して、中心部への自動車の侵入を抑えるようになっており、人口17,000人程度の山間部の都市としては意欲的な計画である。また、観光都市ということもあり、町中で近代建築の保存再生を意欲的に取り組んでいる。
郡上八幡博覧館/(郡上税務署庁舎)
 郡上八幡の近代建築再生の第1号は、郡上八幡博覧館である。この建物は、1920年(大正9)に建築された郡上税務署庁舎で、玄関廻りはRC風であるが、木造2階建て洋風近代建築である。後に、農政局統計事務所として使用されたが、1991年に改修され、生活と水、町の歴史、伝統工芸、郡上踊りなどをテーマにした資料を展示する学習・観光施設となっている。1987年に八幡町指定有形文化財となっている。
郡上八幡旧庁舎記念館/(旧八幡町役場)
 旧八幡町役場前広場は、郡上踊りの中心的な場所であるが、踊りと木造庁舎は不思議に調和しており、庁舎前広場は郡上八幡のシンボル的空問となっている。1994年に新庁舎が移転新築されることになり、前年から木造庁舎の建築的な調査を、木造建築研究フォーラム(注3)に委託する一方、町内でさまざまな議論を繰り返した。結果として、1997年に八幡町は、旧庁舎を取り壊さず、再生する道を選んだ。館名は公募して、213件の応募の中から、町民代表による審査会で、郡上八幡旧庁舎記念館と決定している。
 旧庁舎記念館の1階は、観光案内コーナー、地場産業である木を中心にした展示室や地場産品の展示コーナーもある。2階は、郡上踊りの資料コーナーと踊りの練習場を兼ねた大会議室や伝統産業の講習会が開かれる会議室があり、保存会やお囃子クラブが利用している。また、1階には、観光商工課、観光協会、郡上八幡産業振興公社の事務室があり、郡上八幡の観光と産業振興の中心となっている。
 記念館は1998年9月から整備にかかり、1999年3月に完成、7月10日に開館した。庁舎時代に増築された部分を取り壊し、創建当時の姿に戻すとともに、便所と機械庫を新築した。まちづくり特別対策事業、岐阜県ニューリゾート推進事業に採択され、1998年9月に国の登録文化財となっている。なお、郡上八幡楽市楽座(農産物の直売)の開かれている記念館広場の整備は、1999年に実施された。
郡上八幡楽藝館/(旧林療院)
 旧林療院は、八幡町役場のすぐ近くにあり、本館は、1904年(明治37)に建築された、白壁造の木造2階建て洋風建築である。この他、大正期のレントゲン室や江戸期の足軽屋敷とされる看護婦棟がある。1997年8月に、旧林療院の建物を林幹太氏の遺族から寄付を受け、八幡町は予備調査(注4)を実施した。その結果、文化財的価値が高いと評価された。さらに、登録文化財制度を利用して、保存活用の手続きを進め、1998年に国の登録文化財としてこれら3棟が登録されるに至った。
 これにより、町は楽藝館整備計画を立案し、岐阜県の「中核地方拠点都市中核施設整備事業」の承認を受け、1999年から整備を始めた。同時に、1999年には、国の文化財に関する整備費の補助金を受け、建物の調査を実施した。
 改修の基本方針は、外観や本館内の外科室などは旧状を保つが、2階病室などは、一体的に利用できるように整備、さらに入院棟などは、強度補強を行なうとともに照明や冷暖房設備などを設置し、利用できるようにとしている。水場や乾燥室を撤去し、動線確保のためにウッドデッキが設置されている。
 こうして旧林療院は、画廊、展示室、民俗資料室、林療院記念室などからなる郡上八幡楽藝館として生まれ変わり、郡上八幡の文化創造、人々が集う文化交流の場となっている。
財団法人による管理運営
 近代建築の管理運営について、1998年の「まちづくり特別対策事業」で検討が行なわれ、管理運営の主体は八幡町で、関係団体などの参加を受け入れる運営組織とし、将来的には第三セクター方式とした。しかし、町長の指示もあって、管理運営方式が再検討され、機動性をもたせるために、行政とは切り離し、財団法人の郡上八幡産業振興公社を設立することとした。八幡町の他、商工会議所、森林組合、八幡信用金庫、郡上信用組合などが参加し、資金2,570万円が集まった。
 八幡町産業振興公社の事業としては、庁舎記念館だけでなく、八幡城、博覧館などの管理を町から一括受託することがある。この他の役割は、地場産業や観光産業の振興で、特産品開発や観光開発などを行なうこと、そのため1件につき10万円を限度に、毎年4件の助成事業を行なっている。観光対策として、観光客の滞在時間の延長や観光消費額を増やすための企画や販売促進を行なっている。財団法人を設立するのは、近代建築を再生、市民のものとして活用していくための一つの方法である。
謝辞 郡上八幡関係資料1こついては、八幡町基盤整備課の武藤隆晴係長と教育委員会の河合智子専門職員にお世話になりました。
注1:木造復元の初期の亭例である。犬坂城の復元は1931年であるが、RC造。
注2:観光客数は、1998年で、96.7万人、宿泊者数は、13.2万人(【町政要寛』)。
注3:全国木造建築研究フォーラム(代表上杉啓東洋大学教授)に委託。
注4:八幡町教育委O会が、全国木造建築研究フォーラムと潟Aール・アイ・工一に委託。
■郡上八幡博覧館(旧郡上税務署庁舎)
 改修:1991年3月
 所在地:郡上郡八幡町殿町50
 構造規模:木造2階建て
 敷地面積:1,009.5u
 建築面積:544.7u
 延床面積:228u
 設計:岬建築設計事務所
 施工:高垣組
 総工箏費:5億9,625万円(用地含む)
 当初竣工:1920年
 入館者数:9万人
■郡上八幡旧庁舎記念館(旧八幡役場)
 改修:1991年3月
 所在地:郡上郡八幡町鳥谷520-1
 構造規模::木造2階建て
 敷地面積:1,924u
 建築面積:455u
 延床面積:899u
 改修設計:潟Aール・アイ・工一
 改修施工:高垣組
 総工事費:2億3,302万円(起債約1億5,000万円、岐阜県補助金3,300万円、一般財源約512万円)
 当初竣工:1936年12月
 当初設計:野村理一
 棟梁:都竹京次郎
 入館者数:7万人
■郡上八幡楽藝館(旧林療院)
 改修:2000年3月
 所在地:郡上郡八幡町鳥谷789-1
 構造規模:木造2階建て
 建築面積:271.2u
 延床面積:342.6u
 改修設計:潟Aール・アイ・工一
 技術指導:博物館明治村
 改修施工:ヤマシタエ務店
 総工事費11億1,062万円(起債:8,590万円、岐阜県補助金1900万円、一般財源:1,572万円)
 当初竣工:1904年(明治37)