保存情報第10回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 真野邸 林 美博/三橋建築設計事務所
■発掘者コメント

 名鉄犬山駅西口から県道浅井・犬山線を西へ、 本町通りとの交差点の北東角に建つ 「真野邸」 は、 県道に面して長く特徴的な外壁が続く。 大きな蔵が2棟、 北側の蔵の古さが県道側からも良くうかがわれる。 この交差点を右折して 「犬山城」 をめざす人たちが最初に見ることになる伝統的な町屋である。
 この 「真野邸」 も含めた歴史的な建物の保存とこの界隈の生活者の活気を取り戻す 「まちづくり」 が望まれて久しい。 さきごろ真野邸の数軒先には、 本町通りに面して 「どんでん館」 (犬山市が造ったまちづくり拠点施設) がオープン、 その向かいの空き店舗も商工会議所の空き家対策事業で 「体験工房」 の計画が具体的に動き出し、 さらに犬山城までのこの道路沿いの数個所でも、 新しい動きがちらほら (中には、 古い建物が駐車場になったり、 マンションに変わったりも)。 また、 犬山市が古い民家を買い取りオープンした公設民営の 「市民活動支援センター」 もこの本町通りに面する。
  「城下町再生」 が動き出した犬山で、 現在も市内各所に点在する真野邸同様の伝統的建造物をどう生かしていくのか、 城下の町衆の活躍を期待したい。
所在地:愛知県犬山市大字犬山字東古券
建設年:不明 (江戸後期
登録有形文化財 松阪市立歴史民族資料館 (飯南郡立図書館) 藤田淑子/名古屋女子文化短期大学
■紹介者コメント

 松阪城跡内にあるこの資料館は、 当時の建設要覧 『東宮殿下行啓記念/大林日出男氏蔵の趣旨及経過』 によれば、 「本館は熱誠なる郡民の努力と多大なる篤志家の援助とにより其建設事業を竣へ、 明治45年4月15日開館の機運に達することを得たり」、 「愈寄付金を醵集して図書館を設立し永く此光栄に浴し、 併せて郡民知徳啓発の資に供せんこと」 とあり、 甘粕春吉を代表に60人の建設委員を嘱託に任命し、 この事業に取り組んだ。 設計者は不詳で施工者は下村六次郎、 「寄付募集の状況良好なりしを以って設計を更改して二階建てとし…」、 「建築費は金4,702円89銭5厘・工事設計及監督費金157円19銭。 建設費概算は金6,164円37銭」 と記されている。 その後1978年 (昭和53) に内部を改装、 市の資料館として今日に至る。
 建物は木造2階建て、 135m2の広さの建物は、 中央に車寄せを持つ玄関を設け、 正面左右に翼廊を突き出させ、 1876 (明治9年)、 県令岩村定高によって計画され、 現在、 明治村に移築されている三重県庁舎 (重要文化財) に見られるシンメトリーの構成となっているのは興味深い。 屋根は日本瓦葺き、 外壁は簡素な意匠の簓子下見板張り。 「近代における伝統的和風建築の展開を知ることができる好例として登録有形文化財に指定されました」 と館内に記されている。 しかし、 窓はアルミサッシに替えられ、 とくに車寄せの天井や軒天の痛みはひどく、 指定された文化財をどのように保存し、 維持していくかが今後の課題となろう。  
所在地:三重県松阪市殿町1539
建設年:1912年 (明治45)
登録有形文化財:第24−0009〜0010号