2003年までの文章は雑誌からスキャニングして作成しておりますので、誤字がありましたら申し訳ありません。

環境ビジネス 第9回

循環式トイレの可能性を探る
水野一夫         近藤信武
(環境プロデューサー)       (鬼頭鋼材梶j
 環境ビジネス成功の鍵は情報収集と粘り強さです。私がブロデュースすることになる商品は、環境にやさしい排水の出ない循環式ユニットトイレ「モナレット」でした。
モナレットの構造
 汚水をバッキ槽(バクテリア)にて水と炭酸ガスに分解させ、さらにろ過槽(0.4ミクロンの膜)にて不純物を除去し、再度流し水として利用するシステム。バクテリアの活性を促進・安定させるため、バッキ槽には多孔質セラミックスビーズ(バクテリアのすみ家)を採用、利用者負荷の変化に順応させている。浄化効率は98%と高く、汚水を分解している。また、循環水の着色をある程度防ぐため、脱色ユニットも備えており、子どもや女性が抵抗なく利用できる配慮を行なっている。(図1参照)
@建屋10u未満の場合は建築確認申請が不要(工作物扱い)A浄化槽法の適用外B現地工事不要(工場一貫生産)C排水管工事が不要(手洗い水用の給排水工事は必要)D設置場所を選ばない(据置・基礎選択)E簡単に移動・移設できるF手洗い水は水道水などを使用G強制循環ポンプを採用(凍結防止)H100V電源を使用(ソーラーシステムも可能)
 3穴タイプは標準便器装着では1日300回、節水便器装着の場合は1日850回利用できる。汚水浄化ユニットは3タイプを持つ(浄化槽で15人槽、30人槽、45人槽程度の能力機を揃えている)。し尿臭はない。
モナレットの開発経偉 図1 循環式浄化システムフロー
 1994年(平成6)弊社の取引先で送風機・工作機械メーカーのクメテック(豊田市神池町)の久米社長が発案、当初生ゴミ処理機を造ることを目的に研究を始め、結果として汚水をバクテリアで浄化し、処理水を再利用しようとしたもの。バクテリアの媒体として杉チップ等を採用、さまざまな試作・研究を繰り返してきた。当初はバクテリアの浄化能力に頼るのみで、小人数での利用は良いものの少し集中利用すると、未処理の汚水が流れ出るなど実用化には程遠いものでした。わが社は当初より上棟製作の協力要請を受けていた。1998年(平成10)3月、新設計によるバッキ槽と0.4ミクロンと非常に細かいろ過膜を採用、安定した処理水供給を可能にした2人用モナレットを製造開発、知多半島の美浜町立河和小学校校庭に設置、運用試験を開始、数カ月間運用を監視し、非常に経過が良く試験販売を始める。
 最初は、地元名古屋市を中心に周辺45市町村の建設・公園・農政緑地・都市計画等の各課窓口を訪ね、今後の環境行政の動静とモナレットヘの関心を探る。同時に製造工場を持つ大手企業30数社の総務・施設担当を訪ね同様の反応を調べる。この作業に約2ヵ月を要する。結論として役所では話を聞いていただけましたが、「前例のない物は扱わない」の反応が大勢を占める。民間では導入メリットと信頼性への質問が多く、とくにIS014001取得への取り組みから大手企業ほど関心が強いことがわかる。環境ビジネスとしての感想は「時間はかかるが将来性はある」と判断する。
寒冷地でのテストを強行 表1 活性汚泥濃度と水温による浄化能力表
 スポーツ施設や山岳地・観光地での利用も十分に見込めるとしながらも、まだ正式に冬季テストを行なっていないことから、寒冷地での運用テストに踏み切る。幸い、某大学ラグビー部OBの紹介から長野県菅平高原を訪問し、菅平観光協会副理事長の「トイレに大変困っている」の言葉に冬季耐久テスト地に決める。菅平高原は、「夏はラグビー」、「冬はスキー」で全国的に知名度があり、とくに冬は本州の北海道とたとえられるほど寒さが厳しく、通年の最低気温はマイナス30℃と聞く。標高1,500mに設置、処理槽にヒーターを内蔵し12月から4ヵ月間の運用を行なう。その年の最低気温はマイナス28℃を記録する。ここでは予想に反し処理水の蒸発が多く3回2,500リットルの水を補充する。また、同時に国道19号線沿いの木曽路にあるコンビニエンスストア3カ所にもモナレットを設置、中山間部における冬季テストも実施し、バクテリアが寒さに弱いことを痛感するが、週2回の巡回点検を継続、貴重なデータを入手する。(表1参照)
 菅平スキー場はあらかじめ気象条件が厳しいことを事前に察知し十分な対策を施していましたが、木曽路は国道沿いで雪も少ないとの情報から配管にリボンヒーターを取り付けた程度の対策で運転を開始した。中山間部は予想以上に冷え込み、水温が3〜5℃と低くバクテリアの活性化を妨げ本来の浄化能力を出すことができず、3カ所ともに苦情が殺到した。暫定的な措置を施して運用は継続したものの大きな課題を負うこととなった。ちょうど寒冷地テストを始めたころ2つの催しに参加しさまざまな支援を得た。
 一つ目は中部リサイクル運動市民の会主催による「循環時代の到来」に参加し、循環式トイレの紹介を受ける。この催しにはあらかじめ実施したわが母校の建設工学科学生に募集したトイレデザイン約150点の作品を展示し好評を得る。二つ目は特許庁と中部通産局主催による「特許流通フェアー99中部」に出展参加し、さまざまな企業との出会いを経験する。もっとも有益だったのは日本車輌製造鰍ニの出会いだった。多孔質セラミックスビーズ「日車ポーラスビーズ」の紹介を受け、バクテリア活性化を促進する担体(すみか)として使ってみたらとのアドバイスを受け、試しに1カ所投入、水温3℃が1週間後には10℃上昇し、バクテリアの活発な動きを確認した。ほかの6カ所へも投入しすべてにおいて効果を確認し標準装備とした。ちなみに日本車輌製造鰍ヘ販売代理店としての協力も得ることとなる。また、ろ過膜の詰まり・汚れが早く、平均月1回の洗浄を行なっていたが、膜表面に汚れが付きにくい構造の提案を受けると同時に、循環水の粘性を低減する薬剤投入などの助言から保守サービスが大幅に改善され、現在では半年に1回の洗浄となった。
環境・市民団体との交流 表2 水質検査情報
 また「中部リサイクル運動市民の会」(代表・萩原喜之氏)はゼロエミッション活動・環境ビジネスを育てる等の目的から自ら発行している環境雑誌「イーズ」にビジネス検証として「循環式トイレ1年問追跡レポート」を特集で掲載していただくなど社会に大きくアピールすることができた。そのほか、イベントにおける集中負荷および、長期運用を検証するため、1999年4月から10月までの7ヵ月間にわたり国営木曽三川公園にて運用する。扉にカウンターを取りつけ、利用者を計測した。8月末までに延べ11,356人の利用者があり、一日549人の利用者が最高記録となった。
 試験販売を開始して1年間、品質向上と運用実績づくりに努めると同時に環境意識の高い企業を中心に根気よくアプローチを続けた結果、日本でも優良な特殊鋼メーカー・自動車メーカー・私鉄・電力会社等30数社から採用され、また最低3年はかかると思われた市町村の公園にも納入できた。また来年開催される国内地方博にも採用が決まっている。今後は、循環水の脱色にも挑戦し、トヨタ車体叶カ活環境事業部の協力により、茶褐色になる循環水の脱色に成功(色度100以下)、子どもや女性など利用者からの不快さにも気を配ることができるようになる。(表2参照)また、バリアフリー化をめざした据置型の低床トイレおよび処理ユニットのセパレート化にも着手している。さらに、バッキ槽容量1,000リットル、2,000リットル、3,000リットルを基準に平槽、縦槽、分離槽の3タイプの研究を開始し、多様な二一ズに応えること、また、全国的な保守サービス体制づくりにも力を注く“所存です。(近藤信武)
環境ビジネスをふりかえる
地域材の有効活用を願う    水野一男
情報を実践する大切さ
 環境に配慮して暮らすためのいろいろな資材やシステムがこの連載で紹介されてきたが、それらをただ知っているだけでは何にもならない。実践して良否を判断できてこそ情報は活きてくる。
 ただ、巷にはまたぞろ環境を売りものにした商品があふれてきている。確たる良否の判断基準を持たずに、何がしかの風評を検証する眼を持たない、人任せにするわが国の購買者の気を向けるには、生半可な知識では駄目なことも事実である。
 この連載では商知識や具体的な商品9つを紹介したというより、いろいろな環境ビジネス分野での趨勢や考え方の紹介が主だった。決して紹介できなかった商品やビジネスがこれらに劣るものであるということはまったくない。ただ、少なくとも誌上にご登場いただいた面々の哲学や取り組みの姿勢には光るものがあって、パイオニアの自負が感じられた。
 住宅建築という現場では、環境に関わる事柄が少なくない。環境に配慮された材料やしくみを採用して環境に優しい暮らしができ、長持ちし、循環できる住宅を計画していこうと考えれば、たくさんのエコ商品の知識を得て、それをかみしめられる知見を持っことが大切である。価値観の変換を余儀なくされて、時には施工の方法も大きく変えさせられる商品も少なくない。それを認めなくてエコ商品はわがままでコスト高だと切り捨て、従来の価値観を捨て切れない設計スタイルや良否の判断では環境ビジネスはとうてい理解できまい。
国産材の危機
 今や社会は環境問題において引き返しのきかない路地に突き当たっている。ことに建築がもたらす影響の大きさは関係者として厳しく自覚すべきであるし、今後の取り組みの中で最優先に改善されるべきことは環境問題への配慮であろう。誌面が残り少ない中であえて問題にすれば、循環型社会を形成するうえで“木材”が環境に優れた素材として本来の役割を果たせるよう、建築に携わる人たちがどんなことを考え実践したらよいかを議論すべき時がきている。
 実際わが国での木材利用の80%近くが外材となっており、木材を利用することで地域の森林管理に寄与しようと考えても、あまり直接的効力が発揮できなくなっている。日本の木材が切られないのは材価が低すぎるからであり、それを決めているのは安い外国からの輸入材である。その結果、地域の森林では間伐が進まず、荒れ放題の山がたび重なる降雨の影響で、立ったままの木が土砂ともども流される事故が各地でたびたび起きている。
 そうしたなかで、たとえコツコツと小さな取り組みではあるが、地域の林業の自立を支援しようと地元の木を使う努力をするものの、幾度となく失意しそうになる山側の現実に会う。コストに見合わないからと木材が切られず、ほしい時に木が手に入らないのである。やっと製材品を手にしたかと思えば、今度は品質が安定しておらず価格はいつも違う。量も納期も不安定と、ないない尽くしにあう。
地域の木材を使おう
 環境への配慮からとはいえ、地域材の抱えるこのような現実をくみ取り、そのギャップを埋めていくのは並ではない努力が必要になる。そのことを承知した上であえて読者諸賢にお勧めしたい。
 “地域の木材を使おう”。WTOの進める林産物自由化の波にあって、今や木材は世界相場商品になった。杉や檜などに特別な嗜好がない限り、材価は自分では決められないし、競争力のある林産物輸出国はアメリカ、カナダ、ロシア、ニュージーランド、中国に加えてEUや北欧と強豪が揃ってきた。杉や檜と競合する針葉樹の産出国は、ほとんどが持続可能な林業経営の基盤を築きつつある国ばかり。この状態ではいずれ時を待たず、山村の林業で生計を立てる住戸が消滅する運命にある。
 ゴミやエネルギー、地球温暖化といった環境問題がどん詰まりに来たのと同時に、日本の森林問題もギリギリのところに来ている。森林を所有する誰もが林業経営という眼で森林に手を入れたわけではなかったから、今日いとも簡単にそれを手放すのもやむを得ぬことかもしれないが、木材や森林が将来のわれわれのめざす循環型社会の大切な軸を担うものだとの認識が育ってきている今、林業経営の放棄が加速的に進んでいるとはとても皮肉なことである。経営意欲が失われ、放置され荒廃していく森林の姿は、戦後営々と築かれた林を育てる人の心が、その時の積み重ねもむなしく瞬時にその努力とともに消え去る様に似て、とても落ち着かない。先人の深謀は、のちのわれわれが見抜いてこそ活きてくる知恵の固まりではないか。地域にある杉や檜を活かすことも、もっとも大切な環境ビジネスではないか。(木文化研究所)