2003年までの文章は雑誌からスキャニングして作成しておりますので、誤字がありましたら申し訳ありません。

環境ビジネス 第8回

エコロジー建築と5S
水野一夫           牧村好貢
(環境プロデューサー)  (エコ ソリュージョンズ ネットワーク)
環境哲学を語るドイツの経営者
 日本では、あまり企業哲学や理念を正面から話す経営者にお目にかかったことがない。やはり哲学の国、ドイツならではかとも思うが、エコロジーを語るとき、取り組むときにはこれなくしては考えられない。マーケットニーズ、顧客満足、利益と成長が優先され、時代の流れに敏感であるだけでは地球環境問題を解決できない。個々人の生き方、ライフスタイルの問題であるのと同時に、企業も国家もそのあり方をまず問うことが大切であり、企業理念とビジネスの整合性を保つべきである。これまでのように、一方で社会的によくない活動(ビジネス)で利潤を上げ、その罪ほろぼしのようなかっこうで寄付行為をする。あるいは、次々に新製品を出し、ゴミをつくりながら、改良型のエコグッズ・サービスを提供していくというのも本当の環境負荷の低減にはつながらない。
 私が仕事を始めるにあたっても、まずどっしりと変わらない哲学を持たなければ、社会やマーケットから信頼されないと思い、5Sを考えた。大規模店舗、大型合併、グローバライゼーション、スピードアップ、過当競争(子どもの教育)をやっていて環境に本当に良いのだろうかという疑問から出発し、環境を真剣に取り組むっもりなら、ゆっくり(slow)、小さく(small)、自主・自立・自助(se1f-re1iant)、共生(sharing)、持続可能(sustainab1e)の5つのキーワードを広める必要を感じた。これまで日本の企業は、TQC(総合的品質管理)を通し、製品の品質と企業の体質強化に努め、それを世界中が見習い、20世紀の科学技術と経済発展に貢献した。しかし一方では、そのことが大量生産、大量消費、大量廃棄という環境破壊の一面にもつながり、日本の公害経験を活かしきれないまま同じ過ちを発展途上国の人にも繰り返させている。21世紀の日本の役割と国家目標は明らかであり、元気な国、尊敬される国民になる唯一の方策である。
建築と環境 グリーンフェロービル
 全資源の50%を使い、産業廃棄物の40%を占める建設廃材を出し、全エネルギーの30%強を使用するという、とてつもない業界の大きさを知ると、いくらエコハウスを建てようとしていてもときどき疑問を覚えるし、良心的なエコロジストの建築家は別の分野に移ってしまう。またエコ建材選びといっても価格や入手先の問題でどうしても海外より取り入れなければならず、ライフサイクル・アセスメント(LCA)を考慮しているとは言えなくなってしまう。グローバル化が進めば余計に海外の製品の流入が多くなってしまう。
 グリーンフェローという都市型環境共生ビルの施主であり、この建物から住まいのエコロジーを発信し、ビジネスにしようとしてきた私は、つくる側のことも少しわかり始めてきたが、ますますこの業種の難しさと限界と、その影響力の大きさと、役割の重要性を認識し、考えさせられることが多くなっている。
 ベンチャービジネスを立ち上げるタイミングを考え、フォローの風に支えられながらスタートを切っても、本物志向(LCAを考えた建築)をめざしても、マーケットニーズはまだまだ高まっていない。「エコは高くっく」「地球の健康より自分の健康」「自分の家族や資産が最優先」と考える人が大半である。エコハウスより健康住宅やローコスト住宅、緑化やソーラー発電よりエアコンと床暖房の快適、便利に人々は投資する。
見学者や顧客のこだわり
 これまで900人以上の見学者が訪れたが、おおいに興味は持っても、やはりがんぱって取り入れるには至らない。「土に還る環境負荷の少ない建物」や「自給自足する建物」に関心が高くても、実行するには至らない。地球環境という問題より、実利にあまりつながらず外から見えにくい屋根緑化、雨水利用やエコ断熱材より、内装のほうにお金をかける人が95%以上である。コストが安く、メンテナンスが楽で快適な空間づくりが最優先である(でもどちらが本当に快適なのだろう?)。コストの低い桐フローリングや生石灰クリームなどは採用されやすく、コストが高い自然塗料、ムクの家具などは、なかなか使ってもらえない。健康問題から木や土壁に関心を持つというのはとても結構なことである。そこからもっと広い環境に関心を持ってくれるとうれしいのだが。
 名古屋ではゴミ問題がやかましいが、建築がその中でも最大のゴミ排出源であることを、施主とともに設計者、工務店も理解して建物を建てるようになってほしいものだ。建築もゼロエミッションを考える時代に来ているのだが、まだまだ新建材(石油系)とコンクリート全盛なのは残念である。
マーケットニーズとエコペンチャービジネス
 中部地方でのマーケットニーズはまだまだ低い。関東ではシックハウス対策はごく普通のこととなりつつあり、ビオトーブ付きや貸し農園付きのマンションが、多少交通の便が悪くてもすぐに完売してしまうそうである。それは地域性だけでなく、東京という大都会の息苦しさとコンクリートジャングルから脱出したいがそれもできず、せめて自身の健康を守り、かつ周りの環境をよくしないと生きられないという、せっぱ詰まったところに追い込まれているからだろう。
 しかし、本当はひどいアトピーや花粉症になったり、ゴミや排ガスに息ができなくなったりする前に、そして地球温暖化による異常気象で生態系がおかしくなってしまう前に手を打たなけれぱならない。この地域ではゴミ問題の他はまだ切迫感がなく、取り組みが遅れている。しかし、ゴミ問題のように行き詰まってからでは対策に大きな費用がかかるのは、皆わかってきている。日本の行政も、大企業の対策も、いつまでたっても対症療法で死者が何十人、何百人か出てはじめて動き出すのがつねである。
 マーケットニーズが顕在化しないと動かないのが大企業であるが、今やその二一ズを掘り起こし導いていくのがベンチャーやNPOの役割になってきている。市民との距離がより近いので信頼感とコミュニケーションが生まれやすく、動きやすい。消費者、生活者に迎合したり、情報開示をしなかったりするのではなく、正確な情報を共有し、少しがんばってエコハウスやエコライフに取り組んでいけるよう引っ張っていくことが求められているのではないか。
 一方で、がんばった企業が後からやってきた大企業につぷされないよう保護されることも必要である。企業規模や利益だけでなく、グリーン度とか社会貢献度によって社会から評価を受けられる仕組みづくりもまた必要と考える。ペンチャー育成には社会的風土(米国のように拍手を贈る文化)づくりと制度づくりがなければ、掛け声倒れに終わってしまう。
コーディネーターの仕事
 グリーンフェローには大企業、行政、設計者、工務店、学生、主婦など、さまざまな人が訪れるが、求めている情報はさまざまである。生活者の方は正しい情報が工務店や設計者からは得られないので、私のところへやってくる。有機無農薬の食品と同様、何を信用してよいのか生活者は迷っている。これだけシックハウスと言われながら、対策の取られている建物は10%にもなっているのだろうか。ただ、私が提供している情報も、頭の中に入れて、ファイルの中にしまい込んで、わかったつもりで、知識として持っているだけの人が多い。エコハウス、エコ建材、エコガーデンは「住んでみて」「使ってみて」「育ててみて」初めて良さと苦労がわかるものなのに。
 私は、もう少し使う人、生活者の側に立って、住みやすい、メンテナンスのしやすい家づくりと、同じ建てるなら、少しでも健康的で環境に配慮した家を建ててもらいたいということから、この仕事を選んだ。もうひとつは欧米に行って向こうの人の家に招かれて、やはり日本の家の貧しさを感じることが多く、また、町並みや都市環境の美しさに感動し、それを楽しみ、維持していこうという市民の姿を見て、日本の本当の豊かさもこれからはこれを目ざすことになるだろうと思って始めた。
 しかしつくる人と使う人の通訳をする仕事、正しい情報を提供し、相方が得をするようにアドバイスする仕事、本物のエコハウスをコーディネートするのは、実際にはなかなかお金にならない。私がまだ本当のプロになっていないからというのが第一であろうが、コーディネーターという役割が、日本ではまだまだ認知されていないからであろう。前に述べた環境コストの話と同じく、予防的費用のほうが安くつくというのが理解されていないからである。
公的支援 (環境コストをみんなで負担しよう)
 エコ建材や新エネルギー利用、屋根緑化などはどうしても高くっくものが多いし、個人や個々の企業で負担しにくいというものがほとんどであるが、現在ある製品や建物が環境破壊や環境復元のコストを負担していないのであるから、個々で負担したり、させられないのであれば、皆で負担するほかない。たとえばC02税やゴミ有料化であるが、環境負荷抑制に貢献する製品や企業へ前向きに支援する必要があるように思う。地域全体、国全体からすると、修復より予防のほうがはるかに安上がりであることは誰にもわかるし、イニシャルコストも少なくて済む。リサイクルより減量(リユース)であり、設計の段階からの検討が優先すべきである。個人や民間企業もグリーン調達ができるように、また、中小企業やべンチャー企業のエコビジネスにも積極的な公的支援が求められる。
 もうひとつ脚光を浴びているものに、IT革命があるが、これを中小、ベンチャーがエコの分野において活用できるように支援してほしい。情報化投資も以前と比較して安くできるようになってきているが、それでもソフト開発などには費用も少なからずかかるのであり、国や自治体の代わりに情報提供をしていると考えれば、かえって安くつくと思う。健康住宅やエコ建材の情報はまだまだ混乱しており、正しい情報提供者を育てるほうが、公がムダなパンフレットを大量に印刷するより安上がりである。(牧村好貢)
環境商品が徹底できる環境づくりを
 環境問題は“距離”の意識を持つとよく見えてくる。つまり、時間の経過や場所の広がりを持って目の前の出来事を見るということ。
 名古屋市に3年前できたグリーンフェローのエコビルでは様々な仕組みが考えられ、提案されているが、それに正面から応える人の少なさを牧村さんは嘆いている。眼前の良否と深層の真贋は真実という点では変わりがなく、同じように大切な規範であるが、環境の面から見た影響の大きさから言えば深層に潜む問題のほうがはるかに大きいのである。ただ、眼前のことは誰にでも目にでき、気が付くことができるが、将来や離れた所の事は“見える人”にしか判らないから安直な結果を求めれば前者のみに気を配ることになる。
 エコビルの主はその辺りの事を指摘しているわけだが、これからの社会や消費者は安直な企業活動は認めず、遠くの深いところに配慮した経営に信頼を寄せることになる一との考えからご自身は「ゆっくり」、「小さく」、「自主・自立・自助」、「共生」、「持続可能」の五っのキーワードを経営哲学にしている。
 昨今の環境ビジネスには欧米の進歩した考え方や仕組みを移入した“あやかり型"が多く、商品を勧めるセールストークも俄然、受け売りが中心なため、背景に負うお国柄がよく現れている。つまり、ヨーロッパでも北欧、西欧的な考え方とか、あるいはアメリカタイプ、オーストラリア式とかいう合理性がそのまま翻訳され、消費者の前に示されることになるので、社会が混乱させられ、経済的にもさほど成長はしていない。しかし、環境意識はあまねく高まり、それに伴う消費行動も徐々に現れてきている。ただ、“欧米の高いもの”か“日本の古くて面倒なもの”の中で背伸びしているのが現状である。
 建築などはさまざまな工業製品を材料とし、複数の業種で工事されるため、実際の建築現場で環境的な哲学を徹底することができないと、消費者はせいぜい知見のおよぷ範囲の商品に囲まれるだけで妥協することになりかねない。環境ビジネスの大切さは、環境商品を勧めることと、それらが一因となって商品に込められた哲学を徹底できる環境を追求することであろう。(水野一男)