2003年までの文章は雑誌からスキャニングして作成しておりますので、誤字がありましたら申し訳ありません。

「職人のわざに学ぶ」 第1回

シリーズの狙い
谷口元
はじめに
 隔月で掲載されている連載記事の一つに、職人を扱う新シリーズを予定しています。当委員会では「職人を取り上げた連載を」という話題がかねてから出ていました。そこで昨年の暮れ、委員会メンバーによって座談会形式でこのテーマについての話し合いが行なわれました。その内容を委員長が代表して取りまとめ、新シリーズの意図を読者の皆様に伝えることとしました。 取材候補職人リストアップ表
1999.11-24作成※は支部圏域外
【大工】
入江逸男(春日井市・愛知)
岩崎汀治(熱海市・静岡)
竹下宣夫(伊豆長岡町・静岡)
【瓦葺】
樺リ井利三郎商店(名古屋市・愛知)
山田稔(名古屋市一・愛知)
小笠原(岩倉市・愛知)
川島(関市・岐阜)
大志多和男(西春町・愛知)
山本奈良市・奈良)※
杉浦義照(鬼)(高浜市・愛知)
【鬼板師】
名倉孝(袋井市・静岡)
【下葺】
屋根政商店(名古屋市・愛知)
田中社寺(岐阜市・岐阜)
【茅葺】
北村好美(神宮・三重)
山本剛(神宮・三重)
隅田隆蔵(宇陀郡・奈良)※
田中正光(天理市・奈良)※
二瓶誠一(郡山市・福島)
【槍皮葺・柿葺】
谷上伊三郎(橋本市・和歌山)※
斎藤正巳(名吉屋市・愛知)
【銀金】
岩田茂生(神宮・二重)
鈴木寛一(沼津市・静岡)
【左菅】
船本宗二(名古屋市・愛知)
亀井(鈴鹿市・三重)
清原正輝(上野市・三重)
佐藤勉(松崎町・静岡)
山本堪一(松崎町・静岡)
鈴木安太郎(静岡市・静岡)
【錺金物】
叶X本錺金具製作所(京都市・京都)※
岩E村才治郎商店(京都市・京都)※
岡谷鋼機(名古屋市・愛知)
青木隆典(名古屋市・愛知)
石川一郎(清水市・静岡)
【建具】
後藤長二(桑名市・三重)
【畳】
中村良和(名古屋市・愛知)
【漆塗】
澤野通郎(京都市・京都)※
【造園】
叶ホ捨(名古屋市・愛知)
佐野廣(沼津市・静岡)
伝統技能の保存
 従来の重要無形文化財的な考え方である。その技能はいずれは失われるべきものとしてとらえ、その技能を記録にとどめる。その職人の作品や道具などは有形のかたちで合わせて保存されるべきものである。JIAもその一翼を担い、社会貢献するべきである。
温故知新 職人の技を支える道具
『名古屋のマエストロ』(lNAXギャラリー刊)より
 日本の産業革命以降の工業化とその急成長を支えた諸技術は、伝統的な手工業の技術の蓄積が背景となっている。自動織機、造船、時計、自動車、カメラ、精密機械、アンテナなど時代を代表した先端産業は、まさにその好例であり、東海地域はそれらの重要な基盤産業を支えた地域である。将米の口本を担うべき次世代の新産業の育成も、理論やアイデアに必要だが、技術的な蓄積の中で醸成されるべきものであり、過去に学ぶべきことが多いとされる。
 一方建築に口を向けると、海外からの訪問者が一様に感嘆するのは、日本の各地に展開する、洗練と通俗の織りなす独特の都市の風景と建築空問であり、それを作り上げた技である。現代の代表的な建築作品にも、それらが色濃く投影されているが、一般に建設されている住宅やビル群は、いまやおしなべて無国籍で、地域色は薄れ、ありふれた風景が広がっている。はたしてその状況をこれからも是とするのであろうか。
職人の技の習得に学ぶぺきもの
 若者の理工系離れが憂慮されて久しい。いわゆる3Kの労働として敬遠されるのは建設現場も職人の仕事場も同様である。設計という行為は、建設される敷地をよく調べ、施主やユーザーの二一ズを的確に反映させるべく努力し、同時にその建築がまちの中でいかに寄与するかを検討し、正確な図面表現で施工者や技術者、メーカーに伝達していくという、本来誠に現実的な社会的行為である。
 しかしながら多くの有能な若者は、自らの手の汚れ、図面の汚れを嫌い、純粋で崇高な作品を表現するための没社会的な、バーチャルな知的作業に埋没したがる傾向がある。建築の芸術的価値は高められるべきだが、設計教育はそれだけに傾斜してはならない。
 一方職人の社会は「習うより慣れろ」の体験と修行の場数を重んじる。頭(かしら)や兄貴分の仕事ぶりをまねることで、身をもって作るための技術をたたき込まれる、いわば肉体派の世界である。材料の習熟と道具の手入れ、手先や目先、音や色や臭い、さらには味までも動員する五感の感覚世界でもある。近年石山修武をはじめ鈴木博史、藤森照信各氏が若き職人と建築家をともに教える教育プログラムを試行しているのは、注目に値する。
職人仕事と地域性
 職人の育つ地域には、その作品を嘱望し、対価を支払う富が存在していた。その一面、その地で容易に手に入れることができる素材があり、それをいかにうまく活用するかという工夫から、諸技術が生まれてもいる。たとえば石組み一つをとっても、各地で際だった特長があり、農夫が段状の耕作地を石を積み上げて作る場合にも、たくまずして職人技に近い能力が発揮されている。
職人仕事と環境問題 農家の石組(済州島)
 わが国の建設産業は発展途上国の広大な森の伐採が前提で成り立っており、自然破壊の元凶とみなされても仕方がない状況にある。一方本土の森林資源は管理の手が行き届かず、これまた壊滅の危機にさらされつつある。今や日本人の周辺には人工的な素材を用いた物や材料があふれ、それらの再利用、再資源化が不能であるがゆえに、自然の循環に悪影響を与えつつある。のみならず人の健康や存在そのものも脅かされつつある。
 近年、間伐材を積極的に活用することにより、森をよみがえらせる試みが各地でなされている。そこで活かされる技術は、接着剤やカッターやホチキスでなく、伝統的な道具が使用され、継ぎ手や仕口といった類の伝統的な技、あるいはそれらをヒントとした工夫が求められるであろう。その時技術を継承した職人が存在していなければ、一体どうなるのであろうか。
おわりに
 委員会メンバーは、とくに職人芸に精通しているわけでなく、取材に際しての掘り下げも自ずと限界があることも認識しています。何人かのメンバーで職人さんと対話する中で、われわれなりに何を汲み取れたかも含めて記事にしていく所存です。いわば手づくりの取材記事ですので、何かお気付きの点、アドバイス等ありましたらお寄せ下さい。また参加希望の方、大歓迎です。
(東海支部会報委員会委員長、愛知地域会ブリテン委員会委員長)