2003年までの文章は雑誌からスキャニングして作成しておりますので、誤字がありましたら申し訳ありません。
又、写真、図表は今後スキャニングして挿入させていただきます。

環境ビジネス 第7回

ふるさとの森林づくり
水野一夫           玉井良治
(環境プロデューサー)        (叶剞カ)
森は、遠い未来からの預かりもの
 私たちは、奥三河(愛知県東部山間地域)を中心に事業を展開しそいます。ふるさと奥三河の資源(森林)を有効に活用し、社会に貢献したいと考えています。
 いま、私たちは、ふるさとの森林(次世代のふるさと)未来を真剣に考え、行動に移さなければならないと思います。
「私たちの子どもは、ふるさとの森に何を求めるのか?」
「森と人間の共生システムをどう構築すべきなのか?」
 私たちはこの自問に答えたいと思います。そして、次世代に引き継ぎたいと考えています。それは、散漫な願望や特設会場でのフォーラムだけでは生まれてきません。私たち自身が流域の一員として、森林そのものと、私たちに刻印されている先人たちによる自然への「ハレ(感謝の祭事、イベント)」を、ただ単に次代に引き継ぐのではなく、意欲的思考と楽天的行動によって、主体的に「ふるさとの森づくりシステム」に参画したいと考えています。
ふるさと(奥三河)の森林
 奥三河の森林は、現在、人工林が75%以上を占めています。しかし、育林事業としての歴史は新しく、400年ほど前に細々と始まったといわれています。江戸時代には、ほとんど高木のない採草地であり、今のような林業地域への変貌は、明治以降のことです。先進地域(吉野、天竜)からの技術と知恵を得た先人たちは、植林そして造林地の拡大をすすめ、山の民の生活を確保していきました。しかし本格的な杉、檜(植林)の広域的展開は、戦後の治山・治水と国土再建の用材需要に発しています。
 社会目的(国土保全と森林資源の確保)と経済目的(利潤)が補助金を投下させたとはいえ、8割人工林を可能にしたのは大量の労働力が当地域に存在したことの証といえます。
 しかし、市場原理を考慮しなかった業界戦略による利潤低下に加え、生活利便のための道路がかえって就業人口の減少を誘導し、山の手入れが行き届かなくなるまでには多くの時を必要としませんでした。
 人の手による保全が継続されることを前提にした人工林体系も、その前提がはずされた現在、無残な結果は必然といえます。利用目的を失った森林は、マイナス価値を持ちはじめているといっても過言ではないでしょう。
森援舎・杉生 山の見学会
 私たちは既成概念から自らを解放することからスタートしました。時代とともに「林業に委ねられた森林の保全整備」から「社会(国)による林業(森林保全)への支援」へ、それもむずかしくなると「公益事業(林業)による保全」と変形した「ご都合主義的表題」は林業の自己否定です。私たちは苦し紛れの呪文で自分たちのふるさとを守るのではなく、たとえ間違っていても次世代(での修正)を信じて、新しいコンセンサスを求め出発しました。
 かえりみると、「山の手入れ」「木材価格」「明日の仕事」「仕事仲間の高齢化」等々、若手製材業者2,3人が集まりとりとめもない愚痴の言い合い、というトンネルを抜けたのは3年程前のことです。
 仕事を終えた者が順次メンバーの事務所に集い、定例会が毎週月曜日の夜に開催され、多種多様なゲストを迎え、「林業の現況」からはじまり「企業の果たすべき社会的役割」「人・街づくり」「地球環境問題」を納得できるまで討論しました。
グローバル思考
・CO2による地球温暖化、酸性雨、人口爆発、化石燃料の残存量等々の問題を抱え、私たちはいつまで地球に存在できるのでしょうか。
・私たちが地球環境に対して何も行動を起こさなかったらどうなるのでしょうか。
・資源やエネルギー循環と、経済環境ギャップを放置してよいのでしょうか。
・循環型社会システムは可能なのでしょうか。
・グローバルなテーマに対して、私たちは何ができるのでしょうか。
ローカル行動
・森林の恵み(エネルギー循環)を繰り返し直接採り込み、私たちの活動が、自然の再生能力に利するような(人間の営みを自然循環に適応させる)システムヘ参画しよう。
・母なる海とともに森林がもつ生態系システムにおける進化・多様化への母胎性(源泉的価値)を、有効かつ多様に活用するシステムヘ参画しよう。
・人と地球に優しい(商品価値が環境負荷より大きい)モノ造りに取り組もう。
・ポジティブに(楽しみながら)、それでいてエネルギーをできる限り使わない生活を実践しよう。
 1年程経過した時点で、名は体を顕すといいますが、「(奥三河の森林を代表する)杉に生かされる」「杉を活かす」「杉と共に生きる」といったメンバーの気持ちそのままのグループ名『杉生』(現在は会社名称)が使われ始め、活動理念も確認されました。
森林は、再生します
・地球から受けている恵みを、過去からではなく、未来からの預かりものとして子どもたちに残し、「木の物語」を語り継ぐことを約束します。
 昨年の夏(1999年8月)には「森林からの恵みを、直接お届けします」をテーマに、株式会社杉生を設立しました。「ふるさとの森林と木製品の企画・開発・販売業務は、予想しなかった地域外の異業種を含めた多くの方々との交流を生み、活動に幅ができたと同時に、足元を見つめ直す時間の確保に頭を悩ませ始めています。ただ、株式会社杉生は、私たちの活動の最終形態ではなく、現状における必要道具といった認識のもと、できる限り各界のより多くの方々に教えを請いながら「ふるさとの森林づくり」に取り組んでいきたいと考えています。(玉井良治)
世界に誇れる森林をめざして
 第二次世界大戦後、日本は1,000万haを越える杉、檜などの人工林を作ってきた。これはわが国の森林面積の40%強にあたる数字で、これらの山を作るには20億人×日を超す人手を必要とするから、当時の山村の働き手であれば、だれもがこれにかかわった勘定になる。いわば、国を挙げて取り組んだ植林活動の結果が今日のわが国の森林のべ一スを作っているのである。
 戦後50年を過ぎ、これらの森林は更新時期を迎え、それを保全し、活性化していくことは地球上の使命にもなっているため、地域では、金儲け主義の林業や製材業を改め、市場(消費者)に共感を得てもらえるような事業をしようという業者が現れるようになった。文字どおりエコロジー産業としての林材業をめざそうというものである。
 欧米では、森林資源に配慮した森林管理と木材資源としての持続性を考慮した森林経営を営む森林所有者を第三者機関(森林管理協議会=FSC)が認証して、そこから生産された材木を積極的に利用していくという森林認証制度や、IS014001の環境管理システムを取り入れた林材業者の出現が見られる。これらは持続可能な森林管理をぺ一スにしており、その国の林業政策面での理解が欠かせない要件である。
 森林が木材生産のためだけの存在ではないという認識が広まった今日、林産物を扱う事業者は、消費者や環境NGOから信頼されることが大切になる。そのためには安心できる製品はもとより原材料の木材が信頼できるものであるか否かが問われてくる。前出のFSCによるめざすべき森林経営とは、@森の構造と構成。景観を含めた土地づくりが生物の多様性などに配慮されているかA森林伐採や管理保育による野生生物への影響評価がなされているかB水路や水域、周辺湿地への配慮ができるか。あるいはそれらを管理していく計画があるかC農薬や肥料などの化学製品への適切な配慮があるかD木材生産に向かない土地を保護区とするなど、生態系保護の基準があり、手当をしているかEその場所の土の養分や川の流量など長期的な生態系を見た森林の生産性に対応する計画性があるか、など。
 地域社会に密着した地域の森林への社会的シンパシーと期待感は高まっている。これらに応えるには本当の森林地域としての役割を果たさなければならない。先人の植林の成果を継ぎ、世界に誇る森林管理をめざしてほしいものだ。(水野一男)
環境商品が徹底できる環境づくりを
 環境問題は“距離”の意識を持つとよく見えてくる。つまり、時間の経過や場所の広がりを持って目の前の出来事を見るということ。
 名古屋市に3年前できたグリーンフェローのエコビルでは様々な仕組みが考えられ、提案されているが、それに正面から応える人の少なさを牧村さんは嘆いている。眼前の良否と深層の真贋は真実という点では変わりがなく、同じように大切な規範であるが、環境の面から見た影響の大きさから言えば深層に潜む問題のほうがはるかに大きいのである。ただ、眼前のことは誰にでも目にでき、気が付くことができるが、将来や離れた所の事は“見える人”にしか判らないから安直な結果を求めれば前者のみに気を配ることになる。
 エコビルの主はその辺りの事を指摘しているわけだが、これからの社会や消費者は安直な企業活動は認めず、遠くの深いところに配慮した経営に信頼を寄せることになる一との考えからご自身は「ゆっくり」、「小さく」、「自主・自立・自助」、「共生」、「持続可能」の五っのキーワードを経営哲学にしている。
 昨今の環境ビジネスには欧米の進歩した考え方や仕組みを移入した“あやかり型"が多く、商品を勧めるセールストークも俄然、受け売りが中心なため、背景に負うお国柄がよく現れている。つまり、ヨーロッパでも北欧、西欧的な考え方とか、あるいはアメリカタイプ、オーストラリア式とかいう合理性がそのまま翻訳され、消費者の前に示されることになるので、社会が混乱させられ、経済的にもさほど成長はしていない。しかし、環境意識はあまねく高まり、それに伴う消費行動も徐々に現れてきている。ただ、“欧米の高いもの”か“日本の古くて面倒なもの”の中で背伸びしているのが現状である。
 建築などはさまざまな工業製品を材料とし、複数の業種で工事されるため、実際の建築現場で環境的な哲学を徹底することができないと、消費者はせいぜい知見のおよぷ範囲の商品に囲まれるだけで妥協することになりかねない。環境ビジネスの大切さは、環境商品を勧めることと、それらが一因となって商品に込められた哲学を徹底できる環境を追求することであろう。(水野一男)