2003年までの文章は雑誌からスキャニングして作成しておりますので、誤字がありましたら申し訳ありません。

都市寸景 103
三重県北勢桑名のあたり 最終回
桑名のこれから
文・写真 奥野美樹/奥野建築事務所
 大自然の与える恩恵と試練のもとに、時代をわたってできあがった桑名の周辺地域も、文明が発展する中で求められる都市の機能が衰退してきています。それは単に経済不況のためとはいえず、この地域特有の人々の間に共通して存在するある意識も大きく関係しているのではないかと考えています。このまちは、どのように変化していくのでしょうか。今、行なわれているいろいろな事業をもとにこの地域の『これから』をご紹介します。
 駅前再開発では全国の注目を受けたこのまちも、郊外型で車対応を行なった巨大マーケットに押されています。その落ち込みはひどく社会の二一ズに適応できていない小店舗は窮地に追い込まれているところが多くみられます。そこで1999年3月に『中心市街地活性化基本計画』が策定され、6月に『TMO(タウンマネジメント機関)」を立ちあげるための委員会と実行部隊のワーキング部会が発足しました。今後を担う若い商業者を中心として構成されたワーキング部会は、駅前や旧街区の問題検証や新事業の考察・歴史遺産や伝統産業の再生再構築の検討を開始しました。行政からも『コミュニティーバス』の実験走行(写真@)や外堀の整備工事(写真A)を行ない、まち再興のきっかけを探り始めました。また、『平成の町割会』と称して住民参画のまちづくり協同事業が行なわれました(写真B)。これは、TMOとは少し趣が違い、市民がネットワークをつくってまちづくりに参加し、愛着の持てる、誇れるまちを築こうとするものです。11月に行なわれた第1回の事業は、活動力のある各市民団体の交流会を行ない、各団体の活動内容の展示が行なわれました。それに加え、メインとしての3つのテーマ「駅前再興」「子どもによるまちの再発見」「新しいまちづくりのための新しいネットワークづくり」に沿って、それぞれにワークショップが行なわれました。非常に熟心に行なわれたこの事業は、先に述べたある意識にくさびを打ち込むことができるものと考えています。
 一方、この地域に大きな影響を与えている三大河川にも、国により新たな事業が行なわれています。1つは揖斐川右岸を親水化し、昔から水とゆかりのあるさまざまな歴史文化資源と一体となつた公園整傭が計画され工事が進められています(写真C)2つめは、第二名神道路です(写真D)。水利で伸びたこのまちが、名神高速道路の開通で打撃を受けました。今回は地元を通過することでどれほどの、どのような影響が出てくるのでしょうか。どちらもかなりのお金が投入される事業です。公共性を楯にした無意昧な整傭ではなく、未来につながる付加価値の高い整備を期待しています。
 駅前不振をはじめとするまちの沈滞は、この桑名のまちだけではありません。その意昧では、一元化された日本共通文化に問題のひとつがあるかもしれません。全国で同じように『まちづくり』や『TMO』と騒がれている対策も、同じ手法や展開形式では変わりようがなく、むずかしく思います。地域・地方の再興は地元の人々の意識(ある意識)の転換が大きなカギになっていくのではと考えます。
半年にわたり掲載していただき、私自身も生まれ育ったまちを見つめ直すいい機会となりました。ありがとうございました。
@コミュニティバスの実験走行 A外堀の整備事業:玉重橋(船の通過時に昇降する)。後方は西諸戸(諸戸精文庭園)で一般開放予定
B平成の町割会:ワークショップの風景。会場の西諸戸に集まる人々。約140名が参加 C揖斐川右岸の整傭事業:さくら堤防の復活植樹
D第二名神の工事。木曽川に架かる橋